キュンチョメというアーティストがいます。
2011年の東日本大震災をきっかけに結成された、ホンマエリさんとナブチさんのアートユニットです。
現地に足を運び、震災に関連する作品を作っています。
わたしが彼らの作品と出会ったのは、2017年に石巻で開催されたリボーンアートフェスティバル。
アーケードにあるお茶屋さんの脇にある、ひとが触れ違うのが限界くらいの路地の奥にある美容院。そこがインスタレーションの舞台でした。
鑑賞できたのは「空で消していく 石巻編」「空蝉Crush」の2作品。
「空蝉Crush」がとてもいいんです。
セミは土の中で数年を過ごし、地上に出てきて成虫に生まれ変わる。
被災地の老若男女がそのシンボルである抜け殻を手で破壊して、「自分が生まれ変わったら何になりたいか?」の答えを言う。
抜け殻が乗っているのは鏡で、きれいな青空が映っている。その美しさと、それぞれの言葉(宣言や告白と言ってもいい)。
何かを吐き出すことで救われるというと陳腐な響きかもしれないけれど、この映像に登場するひとの中には近しい人を亡くした方もいらっしゃるんでしょう。
真摯に向き合う人も、ちょっと面白そうじゃんと思って参加した人も、蝉をCrushしたあとにはそれぞれの心に何かが残っているんじゃないかと思います。
そのキュンチョメが、震災に関連する16作品を横浜の民家で公開するというので、これは行かないわけにはいかないッ
津波のあった砂浜にあった「Do Not Enter」のテープ。
「入ってきてはいけないのは海なのに」という気持ちから、海を止めようとする。
考えさせられたり、クスッと笑ってしまったり。
キュンチョメの作品はユーモアと優しさを感じさせてくれます。
電話やメールが繋がらなくなったあの日。
狼なら、電波がなくても遠くに声を届けられるのでは?というコンセプトの作品。
やってみたけど全然だめで、なんだか遠くに伝わんなくて
と公式サイトの解説には書かれているんですが、いまここに届いています。
当日は都内で仕事をしていたんですが、こう感じます。
いろいろなことがひっくり返ってしまった。
料亭で生きたナマズを買って、お祈りをして、宣誓文をつくって、放流する。
料理人のおっちゃんの「え?まじで?」っていう反応も、思ったより大きいナマズに笑っちゃうふたりも、大真面目にお参りするのも面白い。
最後の放流シーンで意味のわからない感動が味わえます。
久々に見ましたが、やっぱり好きです。
石巻の人々へのインタビューと、タブレットで空をパノラマ撮影することによって彼らの消したいものを空で消す映像作品。
消したい記憶は地震や津波そのものの記憶だけではない、という当たり前のことに気付かされます。
作業をしながら帰還困難者の方々と話をしているんですが、ただインタビューするだけでは引き出せない、心の深い部分の言葉が聞けます。
一方で作業中の言葉が笑えたりして、なんとも言えない気持ちになります。
横浜市神奈川区栗田谷の民家で4月12日まで開催されています。
最寄り駅は東急東横線反町駅で、徒歩10分ちょっとです。
20時までやっていますが、住宅街なので夜は道がわかりにくいので注意してください。